カート・ヴォネガットと村上春樹、長谷川四郎やで!

 CRUNCHのギター・ボーカル堀田がなにやら早川文庫のSFを読んでいます。先日は劉慈欣「三体」も読破していましたが、最近読書ブームのようです。


くらんちくん:ずいぶん熱心に読んどるな。

堀田:カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」面白いよ。

くらんちくん:やっと読んどるんか。作者がドイツ軍の捕虜になってドレスデンという都市で味方から大爆撃を受けた体験を基にした反戦小説やな。

堀田:時系列をめちゃくちゃにしてSF仕立てで書いてるのが面白いね。主人公は常にタイムスリップをして過去・現在・未来を行き来してる。

くらんちくん:自分の死ぬ瞬間も知っていて、死んだあとも再び過去の生活を繰り返すのがホラーやなぁ。

堀田:主人公は解離症状を呈しているか、まだらボケになったお父さんみたい。戦争が終わった後も、常に頭の中には恐ろしい体験が続いているんだよ。

くらんちくん:それをSF的に表現するためにタイムスリップという表現になったんやろうな。実際には戦争体験によるPTSDと飛行機事故による器質性精神障害の併せ技やな。NEW ORDERの「Shell Shock(戦争神経症)」を思い出すわ。


堀田:人が死ぬ辛い描写が続くと、「そういうものだ(so it goes)」がすごく増えてくるね。作者がドレスデン大空襲を生き延びた際に、無感動になって、どうしょうもなくなった気分を表してるのかな。

くらんちくん:村上春樹は特に初期の作品でカート・ヴォネガットの影響が強いようやけど、「そういうものだ(so it goes)」に対応する村上語は「やれやれ」やな。

堀田:その体験をやわらげるために作者が創り出した装置がトラルファマドール星人だと思うの。トラルファマドール星人の描写、「身長2フィート(約60㎝)全身が緑色で ー中略ー 緑の眼球が一個ある。彼らは友好的である(42ページ)」。なんか、誰かさんに似てるね。

くらんちくん:知らんけど、トラルファマドール星人は四次元の存在やから過去・現在・未来あまねくすべての時代に存在する。クトゥルフの古き神々と同じやな。「人が死んだとき死んだように見えるにすぎない。なぜなら別の時間軸ではその人はまだ生きてる」んやから。

堀田:113ページで、ドイツのドレスデンで捕虜として押し込められたスローターハウス(屠殺場)とトラルファマドール星が対応してることも示唆されてる。

くらんちくん:137ページでローズウォーターが精神科医に語るんやけど、「思うんだがね、あんたたちはそろそろ、素敵な新しい嘘をたくさんこしらえなくちゃいけないんじゃないか。でないと、みんな生きていくのがいやんなっちゃうぜ」その素敵な嘘が、すなわちトラルファマドール星人やな。

堀田:そのローズウォーターさんが愛読するキルゴア・トラウトのSF(141ページ)で、奇妙な精神病が出てくるの。その原因は四次元世界にあるから三次元の医者には治せない。そして妖精、天使などは四次元に実在する。つまりトラルファマドール星人は妖精や天使のように病気を治す存在なんだよ。

くらんちくん:でもトラルファマドール星自体も無限に滅亡を繰り返し続けて、それを知っていて、誰も止める手立てを持たない。これは主人公がドレスデン大空襲をくりかえし思い出し続けていることとイコールやな。

堀田:その絶望感が似てるんだろうけど、村上春樹が好きな作家 長谷川四郎「シベリア物語」とも文体が似てるね。

くらんちくん:内容に対して表現が乖離してる。淡々としてるというか、ひょうひょうとしてるというか、だから戦争の深刻さを馬鹿にしてるって言われたりするけどな。

堀田:逆だと思うよね。恐ろしい体験すぎて、そんな風な平板な表現しかできないんだと思う。

くらんちくん:そうやな。そうでないと心が壊れてしまうんやろうな。そいでな。ちょっとメルカリ検索してびっくりしたんやけど、長谷川四郎が「子どもの十字軍」という絵本を翻訳しとる。ドイツによって侵略されたポーランドの孤児たちの話や。作者のベルトルト・ブレヒトは「Alabama Song」の作詞者でもある。この曲はDavid BowieやThe Doorsのカヴァーもある。

堀田:カート・ヴォネガットも「スローターハウス5」の冒頭で、戦争体験を描いた小説を「子ども十字軍」とつけると言ってるもんね。

くらんちくん:偶然ではなく必然やな。村上春樹も長谷川四郎もカート・ヴォネガットも戦争が世界に及ぼす影響についてずっと書き続けとるんやろうしな。

堀田:今回はくらんちくん、真面目だね。

くらんちくん:わいが考えとるのはいつだって世界平和についてやで。


せっかくやから、わいが「スローターハウス5」で一番印象に残ったところを読み上げるで。捕虜になったビリーがドイツ兵に婦人服のコートを与えられてひどく滑稽な格好をしとる。その姿を見た厳格な外科医が憤っているシーンや。


「きみは戦争を非常にこっけいなものだと考えているようだな」

ビリーはうわのそらで外科医を見た。自分がどこにいるのか、どうしてここにいるのか、つかのまビリーには思い出せなかった。人々が彼を道化者と見ているとは、夢にも思わなかった。そんな衣装をビリーに着せたのは、いうまでもなく運命である ー 運命と、生きのびようとするするほのかな意志である。

「きみは我々を笑わせたいのかね?」

外科医はある種の弁明を求めているのだった。ビリーには合点がいかなかった。みんなと仲良くしたい、できるなら手助けしたいとも思っているのだが、あいにく物もなく、頭もはたらかなかった。コートの裏地の内側で、彼の指が二つの物体をつかんだ。ビリーはそれを外科医に見せることにした。

「きみは我々がばかにされて喜ぶとでも思っていたのか?そんな恰好でアメリカを代表することを恥だと思わないのか?」

ビリーは片手をマフから出し、外科医の鼻先につきつけた。手のひらには、2カラットのダイヤと部分義歯がのっていた。義歯はわいせつな工芸品のように、銀色、真珠色、ミカン色に輝いていた。ビリーはほほえんだ。




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